2022/06/14

★トピック

リュウグウからはやぶさ2が持ち帰ったアミノ酸が23種類見つかった。

★仮説

新聞各紙が画期適成果だと賞賛しているが、23種類について詳細に述べた日本語記事がないことから、

実はネガティブデータなのではないかと予想した。

★検証

今回公開されたと思われる論文から、成分について本当に画期的な発見だったのかを考察をする。

その前に、アミノ酸について、特に「鏡像異性体」と「ラセミ体」についての理解があると以下の内容理解が容易になるため

共有したい。

鏡像異性体とは、右手と左手の関係を考えると理解しやすい。同じ指で構成されているのに、重ね合わせることは不可能である。このように、鏡に映ったような関係の化合物達を、鏡像異性体と呼ぶ。

ラセミ体とは、鏡像異性体が1:1で混ざった混合物を指す。化学者が意識的に化学合成をしなければ、鏡像異性体ができてしまい、その後の研究を邪魔する悩ましい種になる。

さらに、たんぱく質は”なぜかL体アミノ酸”で構成されることを知っていることも、以後の論文理解に役立つ。

—引用開始—

アミノ酸の名称につく「L」「D」「DL」とは?

アミノ酸はその分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)を持つ化合物の総称です(図)。

グリシンを除くアミノ酸には、ちょうど右手と左手の関係のように、互いに鏡に映すと同一になる構造のものが存在し、一方をL体、もう一方をD体とよんで区別します。体たんぱくを構成するアミノ酸は不思議なことにすべてL体です。D体のアミノ酸は自然界に存在しないとされてきましたが、実はいろいろな役割を持って存在していることが近年、見出されつつあります。DL体はL体とD体の等量混合物で、ラセミ体ともいいます。

うま味調味料になるグルタミン酸をはじめ、今日製造されているアミノ酸の大半はL体です。この資料に登場するアミノ酸も、特に断らないかぎりL体をさしています。

—引用終了—

出所:歴史や製法など、アミノ酸を詳しく学ぼう!, 味の素株式会社ホームページ

このように、ヒトをはじめ、生物を構成するアミノ酸はL体であり、なぜD体が構成しないのかは明らかにされていない。

さらに、一般的に有機合成の際に問題になるのが、ラセミ体の存在である。欲しい形が左手の形だった際に、右手の化合物も

等量できてしまうことがよく起こる。試験管実験では、左手だけの合成には触媒が用いられ、生体内では、L体(左手)アミノ酸だけを作る際に、酵素がその役割を担う。

参考文献:酵素を用いて鏡像異性体を分ける,創る,速度論的分割の力

アミノ酸とたんぱく質の違いについても述べておく。

生体内は、20種類のL-アミノ酸で構成されており、L-アミノ酸が50個以上集まるとたんぱく質と呼ばれる。

—引用開始—

◆タンパク質

約20種のアミノ酸が結合したポリペプチド。タンパク質とペプチドは化学的には同種の物質で、その鎖長(分子量)の長短のみで区別される。両者を区別する厳密な定義は存在しないが、自然界のタンパク質のアミノ酸数は概ね50~1500の範囲であることから、一般的にはアミノ酸数50以上のものをタンパク質と呼ぶことが多い。

—引用終了—

出所1 : 10個のアミノ酸からなる「最小のタンパク質」の創製に成功, 産総研, 2004/08/10

出所2 : タンパク質をつくる20種のアミノ酸

本題に移る。

該当文献によれば、すべての「はやぶさ」抽出物には、L-アミノ酸が微量観察されたようだ。つまりこれは、微量の地球汚染が観察されたことを示す。

しかし、いくつかの物質は、地球上では珍しいアミノ酸だったようだ。

1つは、β-アミノイソ酪酸のラセミ体(DL体)。もう1つは、β-アミノ-n-酪酸のラセミ体(DL体)が、0.09〜0.31nmol/g見つかった。

さらに、非たんぱく質アミノ酸である、β-アラニンが大きな存在量(9.2nmol/g)見つかった。この大小は、小惑星イトカワから持ち帰ったサンプルと比較している。

研究チームは、これらの化合物が非生物的かつ地球外起源である可能性が高いと見ている。

さらに本研究は、サンプルリターンミッションから得られた小惑星物質中の初めての研究成果である。

—引用及び和訳開始—

Abstract

Amino acid abundances in acid-hydrolyzed hot water extracts of gold foils containing five Category 3 (carbon-rich) Hayabusa particles were studied using liquid chromatography with tandem fluorescence and accurate mass detection. Initial particle analyses using field emission scanning electron microscopy with energy-dispersive X-ray spectrometry indicated that the particles were composed mainly of carbon. Prior to amino acid analysis, infrared and Raman microspectroscopy showed some grains possessed primitive organic carbon. Although trace terrestrial contamination, namely L-protein amino acids, was observed in all Hayabusa extracts, several terrestrially uncommon non-protein amino acids were also identified. Some Hayabusa particles contained racemic (D≈L) mixtures of the non-protein amino acids β-aminoisobutyric acid (β-AIB) and β-amino-n-butyric acid (β-ABA) at low abundances ranging from 0.09 to 0.31 nmol g−1. Larger abundances of the non-protein amino acid β-alanine (9.2 nmol g−1, ≈4.5 times greater than background levels) were measured in an extract of three Hayabusa particles. This β-alanine abundance was ≈6 times higher than that measured in an extract of a CM2 Murchison grain processed in parallel. The comparatively high β-alanine abundance is surprising as asteroid Itokawa is similar to amino acid-poor LL ordinary chondrites. Elevated β-alanine abundances and racemic β-AIB and β-ABA in Hayabusa grains suggested these compounds have non- biological and plausibly non-terrestrial origins. These results are the first evidence of plausibly extraterrestrial amino acids in asteroid material from a sample-return mission and demonstrate the capabilities of the analytical protocols used to study asteroid Ryugu and Bennu samples returned by the JAXA Hayabusa2 and NASA OSIRIS-REx missions, respectively.

Jason P. DWORKIN

概要

カテゴリー3(炭素を多く含む)の「はやぶさ」粒子5個を含む金箔の酸加水分解熱水抽出物中のアミノ酸量を、タンデム蛍光・精密質量検出器付き液体クロマトグラフィーで調査した。エネルギー分散型X線分光器付き電界放出型走査電子顕微鏡を用いた初期粒子分析により、粒子は主に炭素で構成されていることが示された。アミノ酸分析に先立ち、赤外線およびラマン分光分析により、一部の粒子が原始的な有機炭素を有していることが示された。すべての「はやぶさ」抽出物には、L-タンパク質アミノ酸という微量の地球汚染が観察されたが、いくつかの地球上では珍しい非タンパク質アミノ酸も確認された。はやぶさ」粒子の中には、β-アミノイソ酪酸(β-AIB)とβ-アミノ-n-酪酸(β-ABA)のラセミ混合物(D≈L)を0.09〜0.31nmol g-1の低濃度で含むものがあった。3つの「はやぶさ」粒子の抽出物には、非タンパク質アミノ酸であるβ-アラニンの大きな存在量(9.2 nmol g-1、バックグラウンドレベルの約4.5倍)が測定されています。このβ-アラニン量は、並行して処理されたCM2マーチソン粒子の抽出液で測定された量の約6倍であった。小惑星イトカワはアミノ酸に乏しいLL普通コンドライトと類似しているため、β-アラニン量が比較的高いことは驚くべきことです。はやぶさ」粒子中の高いβ-アラニン存在量とラセミ体のβ-AIBとβ-ABAは、これらの化合物が非生物的、地球外起源である可能性が高いことが示唆された。これらの結果は、サンプルリターンミッションから得られた小惑星物質中の地球外物質と考えられるアミノ酸の最初の証拠であり、JAXAはやぶさ2およびNASA OSIRIS-RExミッションがそれぞれリターンした小惑星リュウグウおよびベンヌサンプルの分析に用いた分析手順の能力を実証するものである。

ジェイソン・P・ドワーキン(Jason P. DWORKIN)

—引用及び和訳終了—

出所:Non-protein amino acids identified in carbon-rich Hayabusa particles, Meteoritics & Planetary Science 57, Nr 4, 776–793 (2022) doi: 10.1111/maps.13794

★結論

はやぶさから帰還した粒子の抽出物はすべて、微量の地球由来アミノ酸で汚染されていた。

しかし、地球外起源と思われるアミノ酸も少数見つかった。

これらが何を表すかはまだ何もわかっていない。

地球から飛び立った「はやぶさ2」が、火星軌道に近いところから「リュウグウ」のサンプルを無事に持ち帰ったことは画期的かつ感動に値する。私は映画も観に行った。

しかし、研究成果をここまで断定的に結論づけると、「はやぶさ2プロジェクト」そのものに懐疑的な目を向けられるため、未来を感じさせるように、現時点では事実をぼかして発表されているものと感じた。

今後の研究展開に期待したい。

—-✂︎———-✂︎———-✂︎—-

Writer 荻野 真也